荻野先生のお言葉(ドラえもん最終回)

いつものように青い空に白い雲が1つ浮かんでいました。
のび太が学校から帰るとドラえもんが動かなくなっていた。
当然のび太にはその理由が分かりません。たたいたりつついたりしっぽをひっぱってみたり。でもドラえもんはピクリとも動きません。のび太はひき出しのタイムマシンにのって、22世紀へとドラミちゃんに会いに行きました。そして20世紀へ………。
ドラミちゃんは動かなくなったお兄ちゃんを見てすぐその原因がわかりました。電池切れです。
のび太ははやくはやくとせがみました。そんなのび太にドラミちゃんは悲しそうに言いました。「のび太さん。お兄ちゃんとの思い出が消えてしまってもいい?」
ドラミちゃんは説明しました。電池を交換すると今までの記憶がすべて消えてしまうこと、今のままなら消えないこと、そしてドラえもんの製作者は極秘で、連絡して助けてもらうのは不可能なこと……。
のび太はうつむいてある決心をしました。そしてドラミちゃんに言いました。「このままでいいよ。ありがとう。」
ドラミちゃんはそのまま22世紀へと帰って行きました。


あれからどれくらい時間が経ったのでしょう。のび太は、科学者になっていました。小学生の頃、出来の悪かった彼ですが、あの時以来彼なりに必死にがんばって勉強し、大学そして大学院と進学し、今では、権威のあるロボット工学の研究者になっていました。
ある日、絶対入ることを禁じられていた研究室にしずかちゃんが呼ばれました。中に入ると夫であるのび太が微笑んでいました。そして机の上にあるそれを見てしずかちゃんはおどろきました。
「ドラちゃん?」
のび太はあの日以来ドラえもんは未来に帰ったとみんなには言っていたのです。
「しずか、今からドラえもんのスイッチを入れるから。」
しずかちゃんはだまってのび太の顔を見ています。あの日以来ずっとこの瞬間のためにのび太はがんばってきたのです。
子供の頃の思い出がよみがえってきます。
気が付くと頬が涙でぬれていました。
のび太は静かに、静かにスイッチを入れました。
ほんの少し静寂の後、長い長い時がつながりました。
「宿題は終わったのかい?のび太くん。」
あの日と同じ白い雲が浮かんでいました。


あれからまた長い時が経って、ドラえもんにも寿命がやってきました。年老いた科学者のび太は、1体の猫型ロボットを作りました。そしてそれを20世紀の自分が小学生だった頃にタイムマシンで送りました。そのロボットの名前をドラえもんと言います。